JSPSカントリーレポート(ミャンマー)調査でヤンゴン市内の関係機関を訪問

日本学術振興会(JSPS)は、海外研究連絡センターの情報収集機能活用の一環として、センターにおける学術動向調査として、平成26年度から、センターにおいて、カントリーレポートを作成することとなりました。

バンコク研究連絡センターにおいて、今回はミャンマーを対象地域として、当該国の高等教育及び学術の実情や最近の動向について調査を実施することとし、秋田大学教育文化学部高樋さち子准教授をコーディネーター、現地通訳・コーディネーターとしてMoe Moe Thanさんとともに調査を実施しています。

今回7月27~29日に実施した第一回の調査では、ヤンゴン市内にある各機関を訪問しました。調査を終えて、ミャンマーの高等教育政策のおおよその現状が把握することが出来ました。大体の教育関係者の認識は共通であり、ポイントとしては以下の通りまとめられます。

・現在、ミャンマーの大学は各省庁の縦割り管轄
・ミャンマーの教育基本法が国会で審議されており、成立したら高等教育政策も大きく変化する。成立までは後数ヶ月を要する予定。
・ 高等教育については、現在の縦割り管轄から、評議会のような管轄機関を置き、その下に所属する形となる。その際、大学の自治、人事財政の権限付与、学問の自由が保証される予定。
・そうなった場合、大学の予算はどういった形で政府から下りてくるのか、政府からの交付金等の制度はどうなるのかは、まだまだ調整に時間を要する。

個別の訪問記録については以下の通りです。
7月28日(月)
訪問先1:UNICEFヤンゴンオフィス

教育局のCliff Meyer局長に対応いただいた。UNICEFは基礎教育までを主に担当しており、カントリー・レポートの調査項目である高等教育については担当外となるが、ミャンマーの高等教育の概要についてお話頂いた。(今後のインタビューでも同様の情報をもらうことになるが)、ミャンマーの大学は各省庁が管轄しており、18の省庁が169の大学をそれぞれ縦割りで管轄している。教育省主導での教育改革が目指されており、2017年からの5年間のプロジェクトとして実施される予定であるとのこと。

また、ミャンマー教育省におけるComprehensive Education Sector Review (CESR)について紹介いただいた。CESRは総合教育のセクターであるが、その一部に高等教育を担当する部署があるとのことで、次回の調査の際訪問予定である。

写真左から副センター長、髙樋准教授、Meyer局長、Moe Moe Thanコーディネーター、センター長

写真左から副センター長、髙樋准教授、Meyer局長、Moe Moe Thanコーディネーター、センター長

訪問先2:在ミャンマー日本大使館

在ミャンマー日本大使館広報文化班長津下よう子一等書記官を表敬訪問した。国費留学生の選考等も担当されている。日本大使館では、ミャンマーにおける教育についての基本的情報を提供いただいた。ミャンマーの大学は分野にとって省庁が異なることは前述の通りであるが、基本的には省庁の外局といった形で組織が置かれており、大学の自治、人事予算の権限も各省に属している。大学の教員は国家公務員であり、大学の改革はなかなか進んでおらず、科学技術省に比して教育省は遅れている。ヤンゴン大学は1988年の民主化運動以降、学部教育が閉鎖されていたが、今年から再開した。ASEAN統合を見据え、大学の学制の改革行っている。(学士3年→4年へ)

今回、ミャンマー元日本留学生協会(MAJA)を紹介いただいた。MAJAは2001年に設立された団体で、知日派、親日派の団体であり、国費留学生の推薦等も行っている。政府の認可団体が作りにくいという状況もあり、各大学、JICA等の同窓会にもアンブレラ式に門戸を開いている。

訪問先3:
U Khin Maung Win
Myanmar Water Engineering and Products Co., Ltd. (ヤンゴン工科大学客員教授)

U Khin Maung Win教授はヤンゴン工科大学で客員教授を務め、環境コースで教鞭を取るとともにミャンマーのエンジニアリング会社であるMyanmar Water Engineering And Products Co.,Ltd.の代表も務めており、三菱レイヨン株式会社と連携してミャンマーにおける水処理膜事業を展開する。また、三菱レイヨン社との提携により、ヤンゴン工科大学の優秀な教員を日本に派遣するということになった。

高等教育政策については、ミャンマーの教育基本法が制定された後、大学等の高等教育についても改革が実施されるだろうとのこと。その際、教育省の管轄は基礎教育に限定され、高等教育機関は大学の自治、人事予算の独立のために高等教育に関する評議会が管理するという方法になることが考えられる。しかしながら、この評議会を何処の省庁が管轄することになるかについては、まだ不明であるとのこと。

今後訪問すべき場所として、2011年12月に竹内前センター長と田邊前副センター長がミャンマー訪問時、Ko Ko Oo科学技術大臣(当時副大臣)、Mya Mya Ooヤンゴン工科大学元学長に面会していることを話したところ、Mya Mya Oo元学長は知り合いとのことで、紹介してもらえることとなった。また、今回の訪問期間は短く、紹介してもすぐには回れないため、もう少し長期間での滞在し、必要があればインタビューを行うことを薦められた。

写真左からMoe Moe Thanコーディネーター、副センター長、髙樋准教授、U Khin Maung Win教授、センター長

写真左からMoe Moe Thanコーディネーター、副センター長、髙樋准教授、U Khin Maung Win教授、センター長

訪問先4:Prof. Nyi Hla Nge・ヤンゴン工科大学
ヤンゴン工科大学・マンダレー工科大学運営委員会委員長
ミャンマー科学技術省アドバイザー
元ヤンゴン工科大学長、ミャンマー科学技術副大臣

Nyi Hla Nge教授は今回の訪問の中で一番のキーパーソンとなる。Nyi教授は大統領直轄の教育政策担当であり、今回のカントリー・レポートにおける最も重要なデータとなるミャンマー教育基本法を中心となってとりまとめている。Nyi教授は、現在ヤンゴン工科大学・マンダレー工科大学運営委員会委員長及びミャンマー科学技術省アドバイザーを務めており、これまで元ヤンゴン工科大学長、ミャンマー科学技術副大臣を歴任した。

ミャンマーの教育政策については、18のワーキンググループに分かれて高等教育政策のアクションプランを議論している。ミャンマーの教育基本法は、現在国会に法案が提出されており、審議中であるが、今回の通常国会はまもなく終了し、次の国会での成立を目指すとのことで、後2ヶ月ほどかかるのこと。

現在審議中のミャンマー高等教育政策について、大学に求められていることは、大学の自治、学問、財政、人事の自由について。これまで大学は全て各省に付属して、制限されていた状況を打開する。今後の方向性としては、各省から独立し、各大学は大学運営評議会による管理となり、大学の自治が成立するだろう。大学評議会はアカデミックな事項について担当し、教育の質の保証を確保する。一方で、大学が自治を確立する一方で、政府が予算を削減する可能性についても言及された。ミャンマーの大学は私立大学は無く、169の大学は全て国立大学であり、12の省庁が管轄している。68の大学を教育省、60以上の大学を科学技術省が、15の大学を保健省が、と言う形になっている。

写真左から、副センター長、センター長、Nyi教授、髙樋准教授、Moe Moe Thanコーディネーター

写真左から、副センター長、センター長、Nyi教授、髙樋准教授、Moe Moe Thanコーディネーター

ヤンゴン工科大学キャンパス

ヤンゴン工科大学キャンパス

ヤンゴン工科大学正門 左から副センター長、センター長、髙樋准教授

ヤンゴン工科大学正門 左から副センター長、センター長、髙樋准教授

7月29日(火)
訪問先5:JICAミャンマー事務所 伊佐康平氏(教育担当)

JICAミャンマー事務所伊佐康平所員を訪問した。高等教育を含めた教育の支援、また産業人材の育成を実施している。JICAのミャンマーにおける教育支援としては、元東京工業大学副学長の牟田博光教授をミャンマー教育省の政策アドバイザーとして派遣しているほか、タイに事務所があるAUN/SEED-Net、人材育成支援無償(JDS)を通じて年間44名の修士課程に派遣、ミャンマー商工会議所との連携で人材育成事業等、様々なプロジェクトを実施している。

ミャンマーの教育改革としては、これまでのインタビューでも明らかになっているが、教育基本法(National Education Law)が国会に提出、審議中である。

基礎教育においては、現在の5歳からの5-4-2の11年間の基礎教育を、ASEANに合わせ5-4-3の12年間に移行するとともに、5歳からはキンダーガーデン制にするとのこと。初等教育ではカリキュラムの変更を行い、1)考える力の育成、2)外国語、少数民族の言語への対応、3)科目構成のフレームワークの変更を実施する。

高等教育については、所管の官庁が大学の管理を行っている現状から、予算・人事の権限の委譲、大学の自治を認めることになるとのこと。これらはこれまでも同様の情報提供があったとおりである。ヤンゴン工科大学、ヤンゴン大学は、1988年の民主化デモ以降、学部教育がストップしており、学部学生は地方で教育を受けざるをを得ない状況となっていたが、ようやくヤンゴン工科大学は2012年3月より、ヤンゴン大学は2013年12月より学部教育を再開した。JICAは「Capacity Development at YTU &MTU in teaching and research」として、ヤンゴン工科大学とマンダレー工科大学の工学分野における高等教育の強化を支援している。

写真左から、髙樋准教授、伊佐氏、センター長、副センター長、Moe Moe Thanコーディネーター

写真左から、髙樋准教授、伊佐氏、センター長、副センター長、Moe Moe Thanコーディネーター

訪問先6:ミャンマー教育省高等教育局
事務次長(南ミャンマー地域担当)Prof. Dr. Nay Win Oo

ミャンマー高等教育局はヤンゴン大学の中に事務所を持つ。ヤンゴン大学は教育省管轄下であり、今のところ大学自体が教育省の組織の一部となっているためである。今回訪問したNay Win Ooミャンマー教育省高等教育局事務次長は、首都大学東京で博士号を取得しており、ミャンマー教育省が管轄するミャンマー南部の20の大学を担当している。

ミャンマーにおける高等教育の展望についてインタビューしたところ、今回の教育基本法の制定により、教育の分権化を目指しているとのことで、現在上院での審議中で、今年中の成立を目指しているとのこと。基本法が成立した後、University Law及びPrivate University Lawの制定が想定されるが、これらについては基本法に続いてということになり、まだアナウンスはされていない。この基本法により、大学の自治化、学問の自由、財政と人事の権限付与が目指されることとなる。しかしながら、財政の問題があり、完全に大学の自治が確立されることは難しいだろうとのことであった。大学の予算は、交付金形式となり、各大学の学長が参加する大学運営評議会によりチェックを行うという形にすることを想定している。現在169ある国立大学については、基本法の下でこれまでの各省庁管理から一つの機関(評議会)の下に置くことを目指している。前述の通り財政面等の課題もあるが、大統領の意向としても、実施したいとのことであった。ただし、防衛大学だけはその性格上、これまで通り防衛省の管轄となる予定である。教育基本法については、2013年1月の新聞にもドラフトが掲載され、意見を広く集めた上で国会に提出されたとのことである。

写真左から、副センター長、髙樋准教授、Nay Win Oo教授、センター長、Moe Moe Thanコーディネーター

写真左から、副センター長、髙樋准教授、Nay Win Oo教授、センター長、Moe Moe Thanコーディネーター

訪問先7:ヤンゴン大学

ヤンゴン大学は1920年に設立されたミャンマー最古の国立大学である。20の人文自然科学の学部を持つ。1988年以降学部学生の募集を停止していたが、今年から再開し、現在は800名の学部学生を含む5133名の学生が所属する。13の大学と大学間交流協定を締結しており、日本では名古屋大学と締結している。今回の訪問では、Aung Thu学長(Moe Moeさんの恩師)、Aung Kyaw副学長(首都大学東京で博士号取得)、Dr. Kyaw Naing副学長(北海道大学で博士号取得)を表敬訪問した。ヤンゴン大学の概要、日本の大学との連携について伺うとともに、次回の訪問に合わせて、JSPSの事業説明会を実施することとなった。

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(上下とも)写真左から、Moe Moe Thanコーディネーター、髙樋准教授、Aung Thu学長、 センター長、副センター長、Dr. Kyaw Naing副学長、Aung Kyaw副学長

(上下とも)写真左から、Moe Moe Thanコーディネーター、髙樋准教授、Aung Thu学長、
センター長、副センター長、Dr. Kyaw Naing副学長、Aung Kyaw副学長