2017年2月9日、JSPS、JSPSタイ同窓会(JAAT)、タイ学術会議(NRCT)の共催による国際学術セミナー“Research for Sustainable Life”を開催しました。
今回のセミナーでは、「Sufficiency(足るを知る)」をセミナーのトピックとして、日本とタイの研究者各1名による講演が行われました。
開会式では、NRCTのWiparat De-ong副事務局長と当センターの山下邦明センター長が挨拶を行いました。山下センター長は挨拶の中でJSPS-JAAT-NRCTの3機関の連携や現在タイに拠点を置く46校の大学の活動にも触れながら、今後の日タイ学術交流促進の展望について述べました。
講演では、明治大学ASEANセンター長兼AIT学長上級顧問の小沼 廣幸 教授に “Contribution of Sufficiency Economy Philosophy and New Theory of Agriculture to the Attainment of Food Security and Sustainable Society”と題してご講演いただきました。小沼教授は農学をご専門とされており、以前は国際連合食糧農業機関(FAO)事務局長補兼アジア太平洋地域代表も歴任されております。小沼教授は、FAO在勤中にタイのプミポン前国王と2度お会いされたことがあり、プミポン前国王は食料安保や2003年にタイで発生した鳥インフルエンザのことなどについて言及されたそうです。同国王の提唱した「足るを知る経済(Sufficiency Economy)」についても紹介され、「節度:Moderation」「妥当性:Reasonableness」「(内外の変化に対する)自己免疫:Risk Management」の3つの要素から成るこの考えは、タイ国内だけでなく2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「持続可能な生産消費形態の確保」等にも通じると説明されました。また、講演の中では食料安保や気候変動など様々な問題も取り上げながら、我々がこれらの問題を抱える中で、持続可能な社会に向け、プミポン前国王の考えから学ぶことが沢山あると結論付けられました。
続いて、青少年健全育成財団(Foundation of Virtuous Youth)充足学校センター(Sufficiency School Centre)センター長のDr. Priyanut Dharmapiyaに、“Advanced Research in Sufficiency Social Science”と題して講演いただきました。Dr. Priyanutは学士号及び修士号を筑波大学で取得されており、タイ国家経済社会開発委員会(NESDB)やタイ王室財産管理局で長らく「足るを知る経済(Sufficiency Economy)」に関連する事業を担当されています。講演では、タイの森林減少や貧困問題などを取り上げながら「足るを知る経済哲学」に基づく意思決定モデルや同哲学が持続可能な開発を達成するための手段となることなどを説明をされました。また、SDGsの目標4「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」にも触れながら、タイの教育に「Sufficiency Thinking」を導入した「Sufficiency School」の取組事例等についても紹介されました。同学校では、生徒はただ覚えるだけではなく、考え、そして行動することを重要視しているそうで、生徒らの特性や能力に関する調査結果についても説明がありました。
当セミナーにはタイ国内の研究者らを中心に約50名の参加があり、タイ国民にとっては非常に身近なテーマだったことから、各講演者のプレゼン内容に高い関心を示していました。