2016年2月25日、JSPS、JSPSタイ同窓会(JAAT)、タイ学術会議(NRCT)の共催による国際学術セミナー“Academia Responsibility for Sustainable Society-Lessons Learned from Social Business”を開催しました。
当セミナーには、JSPSバングラデシュ同窓会(BJSPSAA)よりM. Afzal Hossain会長と
Nur Ahamed Khondaker事務局長、JSPSフィリピン同窓会(JAAP)よりJaime C. Montoya会長を招へいし、パネリストとして登壇いただきました。JSPSバンコクセンターでは現在4カ国(タイ、フィリピン、バングラデシュ、ネパール)の同窓会を所管していますが、当該国以外の同窓会会長のJSPS同窓会セミナーへの参加は今回が初めてであり、同窓会同士の交流を通じて、今後アジア地域における学術交流が一層推進されることが期待されます。
冒頭の開会式では、NRCTのJintanapa Sobhon上級研究顧問、本会の樋口和憲人物交流課長、Dr. Sunee Mallikamarl JSPSタイ同窓会長が挨拶を行いました。
午前中のセミナーには、日本、タイ、バングラデシュ、フィリピンから講師及びパネリストを招へいし、グローバルな視点から見た持続可能な社会の構築に向けた学術界の役割について、英語で講演ならびにパネルディスカッションが行われました。
まず、法政大学の鈴木佑司名誉教授に、“Challenges and Prospects of Higher Education and Research Institutions in Asia”と題してご講演いただきました。
鈴木教授からは、「国連持続可能な開発のための教育の10年」の最終年である2014年11月に名古屋市で宣言された持続可能な開発のための高等教育に関する名古屋宣言や、日本の高等教育の改善に係る種々の取り組みを紹介頂きました。加えて、アジア各国の急激な経済成長等に伴う貧富の差・急激な都市化等の弊害や今後の人口構造の変化を踏まえた上で、学術界が持続可能な社会の構築に貢献するためには、研究や教育システムの縦割り構造を改善し、産業界や地で域社会と連携して理論と実践を結びつけることや、ネットワーキングにより地域横断的な活動を強化することが重要であると述べられました。
次に、タイ商工会議所大学のEdward Rubeschイノベーション主導起業家プログラムディレクターに、“Social Enterprise: Overview”と題して講演いただきました。
Edward氏は、国際的なエネルギー関連企業であるBPが起こしたメキシコ湾原油流出事故における社会に与えた影響を例に挙げながら、企業、NGO、ソーシャルビジネスを含む全てのビジネスは社会に影響を与えるものであることを説明頂きました。加えて、ソーシャルビジネスは新しい価値を発見する最先端に位置するものであり、現在市場として存在していなくとも問題の解決により新たな市場を創るとして、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校のハース・ビジネススクールを中心に、タマサート大学やロンドンビジネススクール等、大学及びビジネススクールのネットワークにより提供されているGLOBAL SOCIAL VENTURE COMPETITIONを紹介いただきました。その中で、医療を必要としている低所得者層の人々が、お金があるときに医療を受けるのではなく、必要な時に医療が受けられるようにすることを目的として実施される仕組み“Garbage Clinical Insurance”等の興味深い事例についてもあわせて紹介いただきました。
その後、UNESCOバンコク事務所のGwang-Jo Kim所長をモデレーターに、Jaime C. Montoyaフィリピン同窓会会長、M. Afzal Hossainバングラデシュ同窓会会長、同志社大学の鈴木絢女准教授、鈴木佑司名誉教授をパネリストにお迎えし、パネルディスカッションが行われました。
まず、3人のパネリストがそれぞれの見地から持続可能な社会の構築に向けた学術界の役割についてプレゼンテーションを行いました。
Montoya会長はフィリピン科学技術省(DOST)傘下のフィリピン保健研究開発評議会(DOST-PCHRD)の理事を務めておられます。冒頭で、「持続可能な社会とは、現在・未来に渡って、健康、生命、文化、自然資本を保証するものである」(Viederman,1933)という定義を紹介した後、持続可能な医療・ヘルスケアシステムの構築に向けてDOST-PCHRDが実施している各種の取り組みについて紹介がありました。
ハジェ・モハマド・ダネシュ科学技術大学前学長で現在バングラデシュ農業大学農学部長を務めておられるHossain会長は、まず学術界が社会の発展に果たす役割について述べられました。続いて、バングラデシュにおけるソーシャルビジネスの成功例として、グラミン銀行の活動が紹介され、その後学術界とソーシャルビジネスは様々な分野において連携が可能であることが述べられました。
鈴木絢女准教授は、“Transformation from a learner to a change agent”と題し、学生が開発の概念と理論について「know=知っている」状態から、滋賀県の椋川で実施したフィールドワークでの実践を通じて、「knowing=理解」を深めていったプロセスについて紹介されました。
その後の質疑応答では、新興国では人口が急激に増加していく中、どのように持続可能な社会を構築するか、また、学術界の提供する教育は産業界や社会にどのように貢献できるか、といった点について活発な議論が行われました。鈴木教授からは、現在のソーシャルビジネスは、以前より膨大な知識を必要とする付加価値のあるものに変化してきており、そのためには教育が必要とされるが、教育の質の向上に必要な資金は誰が負担するのか、との問題提起があり、教育は大きなビジネスではあるが、本質とビジネスのバランスを保つことが重要である、と述べられました。
午後のセミナーには、タイ国内の大学、企業ならびに公的機関より講師及びパネリストを招へいし、タイ国内の視点から見た持続可能な社会の構築に向けた学術界の役割について、タイ語で講演ならびにパネルディスカッションが行われました。
まず、カセサート大学のPhiphat Nonthanathornソーシャルエンタープライズリーダーシップセンター長に、“Social Business for Sustainable Develpment”と題してご講演いただきました。
まず、ソーシャルエンタープライズの歴史について説明があり、英国におけるソーシャルエンタープライズセクターの例が紹介されました。続いて、企業の社会的責任(CSR)は国、企業、消費者、コミュニティーの4者の関係で構築されていることや、CSV、共益の創造(CSV)、持続可能な発展(SD)、持続可能な経済(SE)の関連について説明がありました。
また、マイクロファイナンス、教育、コンサルティング、医療クリニックといった国際的なソーシャルビジネスの例や、OTOP等のタイにおけるソーシャルビジネスの例が紹介されました。
その後、タイ同窓会理事を務められているマヒドン大学理学部のWichet Leelamanit博士をモデレーターに、トヨタ自動車タイランドのVudhigorn Suriyachantananont上級副社長、Bangchak石油精製株式会社のYodphot Wongrukmit上級副社長、生物多様性に基づく経済開発委員会(BEDO)のTanit Changthavorn事務次長をパネリストにお迎えし、パネルディスカッションが行われました。
まず、3人のパネリストがそれぞれの見地からプレゼンテーションを行いました。
Vudhigorn上級副社長はまず、「役職に関わらず共に働き、真摯に義務を果たすことにより、国の発展に貢献する」というトヨタ自動車の創業者による事業理念と、社会貢献に対する方針について説明しました。その後、教育支援や生活の質の改善が必要な人々を支援する基金等の取り組みや、日本語の「改善」をキーワードにしたソーシャルイノベーションのロールモデルの紹介がありました。
Yodphot上級副社長は、Bangchak石油精製会社の設立の沿革と事業理念を紹介した後、プミポン現国王の提唱する「Sufficiency Economy:足るを知る経済」の概念について説明されました。その後、Bangchak石油精製会社が実施する、競争力を高めるための人材育成モデルや、海外研修の紹介がありました。Yodphot上級副社長は、足るを知る経済の実現のためには利益と価値のバランスを取ることが重要であると述べられ、最後に、“Sustainability doesn’t mean less profit, it means profit forever” というPhillip Barlagの言葉が紹介されました。
Tanit事務次長は、BEDOの事業内容について、公平かつ持続可能な生物多様性の利用を推進することであると説明し、BEDOが実施した地域社会との協力例として、ナムキエン地域における地域の特性を活かした商品開発の取り組みが紹介されました。
その後の質疑応答では、トヨタのように数多くの社員を抱えている大企業ではどのように人材育成を行っているのか、また、BEDOが実施した柑橘系の農作物や藍染めの技術を利用した商品開発等を通じた地域社会との協力例について等、数多くの質問が挙がりました。
最後に、山下邦明JSPSバンコク研究連絡センター長が閉会の挨拶を行いました。
当セミナーにはタイ国内の大学や研究機関、企業等から約130名の参加があり、成功裏のうちに幕を閉じました。